灘酒の歴史
その2
灘酒隆盛の要因
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明治期以前までの灘酒隆盛の要因を箇条的に示すと次の通りです。
(1)立地的要因

海上より見る沢の鶴全景

(2)原料素材的要因

  • 西宮における宮水(みやみず)*の湧出発見により、良質豊富な原料用水が確保できた
  • 近接地に良質の播州米*を大量に得ることができた
  • 六甲山系の急流は水車精米に適し、高品質の白米を大量に得ることができた
  • 吉野杉の良材に恵まれた

(3)技術的要因

独自の水車精米や軟質大粒白米、宮水、諸白寒造り(玄米ではなく白米のみを使って、細菌汚染の少ない寒期に集中的に醸造すること)などが、杜氏の優れた技術力により総合的に活用され、特徴ある灘酒が醸し出された。特に水車精米は、精白の良さといい生産能力の大きさといい、それまでの人力による精米法を圧倒。天保期(1830〜44)には75〜65%の精米歩合のものまで出現したという

(4)経営的要因

  • 経営態度が全てに進取的であった
  • 原料米の経済的購入、大型生産など生産原価に意が用いられた
  • 大量消費地の江戸に対し、下り酒問屋による強力な販売網の支援が得られ、商圏が拡大した
  • 興隆期において自由競争の場に恵まれ、隆盛の機運を確固とした
  • 資本力が充実していた
  • 幾度かの経営危機を経営者の一致した協力により克服した
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寒造りに好適の気候*
灘五郷は、阪神間の海岸線に沿って飛び石のように点在しています。六甲山系から海に注ぐ夙川、芦屋川、住吉川、石屋川、都賀川、生田川の急流が海岸に砂州を造りました。この砂州は酒造りに必要な良質の水が得やすく、大きな蔵が建てられる理想の土地でした。昔はこれらの川を利用して水車小屋を使って精米し、人力では及びもつかないほど精白度の高い米を得ていました。
清らかな酒を醸す必須条件は、精米度と低い気温です。灘五郷は冬になると六甲颪(おろし)をまともに受けます。肌を刺すような六甲颪の寒気を取り入れるため、灘の酒蔵はたいてい棟を東西に長く伸ばし、窓は北向きに建てられています。
このように灘の酒造りには、恵まれた自然環境と人知との融合があらゆるところで見られています。
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樽回船(たるかいせん)*
近畿から江戸への酒輸送は慶長時代にはじまり、当初は馬による陸上輸送でしたが、ほどなく販売量の増加に対処するため帆船による海上輸送となりました。江戸初期には大阪で船問屋がつぎつぎ生まれ、船の両舷に竹を菱形に組んで樽の安定を図った菱垣回船(ひがきかいせん)や、後には、より安定性があり船足が速い酒輸送専門の樽回船が用いられました。
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丹波杜氏(たんばとうじ)*
宮水、山田錦という最高の原料の持ち味を、最大限に引き出しうまい灘酒を造り上げるのが「丹波杜氏」の技です。杜氏は酒蔵で働く蔵人たちの長で、いわば工場長的存在。この杜氏の下に選ばれた蔵人たちが集まって一つの集団として働き、蔵ごとに酒造りの技を競い合ってきたのです。蔵人たちは丹波・篠山地方の出身者が多く、農閑期を利用して酒造りにやってきたもので、杜氏との強い連帯感を持っていました。こうした伝統の中で「丹波杜氏にあらざれば杜氏にあらず」と言い切るだけの自信と気概がはぐくまれ、明治以後、丹波杜氏は技術的に遅れていた他の地方の酒蔵を指導するなど、日本酒文化の伝承と発展のために活躍を続けてきたのでした。そして機械化が進む今日でさえ、杜氏は灘の酒の味の決定者として、さらにその責任に重きを加えています。
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宮水*
宮水は西宮市の海岸から1kmくらいのところにある浅井戸から湧出しています。宮水が酒造りに最適の成分組成であることは、他地方酒造用水に比べて以下のような特長を持っているためです。

  1. 酵母の増殖に欠かせないリン酸成分が約10倍量と特異的に多い
  2. 同じく酵母の増殖に必要なカリウム成分が多い
  3. 清酒を着色させ香味を悪くする成分である鉄分が極めて少ない
  4. 塩分を適度に含んでいる

そのほかボロン、バナジウム、ルビジウムなどが微量ながら特異的に含まれており、これらは酵母の増殖に対する促進剤として酒造りに効果的な影響を与えていると推察されています。現在の科学でも全く同じものがどうしても作れない宮水は、まさに灘五郷が持つ貴重な財産と言えるでしょう。
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播州米*
酒の原料となる米は、私たちが日頃ご飯として食べる「うるち米」と呼ばれる種類のものです。よい酒を醸すには米の精米度が大切ですが、並の米ではどれほど精米度を高くしたからといって、その分だけ酒の味がよくなるという訳ではありません。
宮水とともに灘の酒造りに欠かせないのが、播州平野で育った「山田錦」という米です。山田錦は大粒で心白が大きく、しかも宮水になじみやすいことなど、酒造りに必要な要素をすべて満たしています。粒の真ん中に心白と呼ばれる固まったデンプン質があり、宮水に漬けておくとゆっくりと溶け、麹菌が中心に入りやすく、できた麹は糖化しやすく、それでいて米の形は全く崩れません。コシの強い、いわゆるコクのあるうまい酒ができあがります。この酒造米の王者である山田錦との出会いが、今の灘酒を生んだ大きな要因となっているのです。
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